2016年2月5日

続き

標数p>0p > 0の場合

本題.kkを標数p>0p > 0の閉体,GGkk上の連結簡約代数群とし,GGの代数的な表現のなす圏RepG\mathrm{Rep}Gを考える.極大トーラスTTを固定し,X=X(T)\mathbf{X} = X^*(T)ΦX\Phi\subset \mathbf{X}をルート全体とする.またX+\mathbf{X}^+を支配的な元全体とする.(記号を変えて)Weyl群をWfW_{\mathrm{f}}と書き,wW=WfZΦw\in W = W_{\mathrm{f}}\ltimes \mathbb{Z}\Phiを(双対群の)affine Weyl群とする.これは“p-dilated dot action”によりX\mathbf{X}に作用する.この作用をwλw\cdot \lambdawW,λXw\in W,\lambda\in \mathbf{X})と書く.

λX+\lambda\in \mathbf{X}^+に対して最高ウェイトλ\lambdaの既約表現L(λ)L(\lambda)が存在し,RepG\mathrm{Rep}Gの既約表現はこれで尽きる.またp>hp > hhhはCoxeter数)と仮定し,λ0X+\lambda_0\in \mathbf{X}^+を全ての正ルートα\alphaに対して0>α,λ0+ρ<p0 > \langle \alpha,\lambda_0 + \rho\rangle < pを満たすものとして固定し,Rep0G\mathrm{Rep}_0GL(λ0)L(\lambda_0)を含むブロックとする.Rep0G\mathrm{Rep}_0Gの既約表現全体はL(wλ0)\mathbb{L}(w\cdot \lambda_0)となる.なお,wλ0w\cdot \lambda_0は支配的である必要がある.これは次のように言い換えられる.fW{}^{\mathrm{f}}WWf\WW_{\mathrm{f}}\backslash Wの最短長さを持つ代表元全体とすると,wwλ0w\mapsto w\cdot \lambda_0によりfWWλ0X+{}^{\mathrm{f}}W\simeq W\cdot \lambda_0\cap \mathbf{X}^+となる.

Rep0G\mathrm{Rep}_0Gも最高ウェイト圏であり,標準加群Δ(w)\Delta(w),余標準加群(w)\nabla(w)を持ち,{[Δ(w)]}\{[\Delta(w)]\}はGrothendieck群[Rep0G][\mathrm{Rep}_0G]の基底となる.よって同型[Rep0G]wfWZw[\mathrm{Rep}_0G]\simeq \bigoplus_{w\in {}^{\mathrm{f}}W}\mathbb{Z}wを得る.この場合もwall-crossing functor Ξs\Xi_sが,今度はaffine Weyl群WWの単純鏡映全体SSの元ssごとに存在し,やはり[Rep0G][\mathrm{Rep}_0G]は右WW表現の構造を持つ.これを加味して右辺を変えると,次のWW表現としての同型: [Rep0G]sgnZ[Wf]Z[W] [\mathrm{Rep}_0G] \simeq \mathrm{sgn}\otimes_{\mathbb{Z}[W_{\mathrm{f}}]}\mathbb{Z}[W] を得る.ただしsgn(w)=(1)(w)\mathrm{sgn}(w) = (-1)^{\ell(w)}は符号表現である.

この同型をcategorifyしたい.

diagramatic Hecke category

O\mathcal{O}におけるBS\mathrm{BS}の類似が必要となる.BS\mathrm{BS}は係数が標数正でも定義されるが,これは正しい対象にはならない.その代わりに,Elias-Williamsonにより導入されたdiagramatic Hecke category D\mathcal{D}を使う.

D\mathcal{D}はその名の通りdiagramaticに定義される.D\mathcal{D}の対象はSSの元の列(s1,,sr)(s_1,\ldots,s_r)である.これを横に点々と並べて書く.射はこの点々の間を結ぶグラフ全体(で特別な形をしたもの)であり,適当な関係式(すげー複雑)で割られている.構成はやたら複雑だが,BS\mathrm{BS}と同じような性質を持っている.

  • 次数構造を持つ加法圏である.
  • (s1,,sr)(s1,,sr)=(s1,,sr,s1,,sr)(s_1,\ldots,s_r)\otimes (s'_1,\ldots,s'_{r'}) = (s_1,\ldots,s_r,s'_1,\ldots,s'_{r'})によりモノイド圏の構造が入る.
  • wWw\in Wに対して対象BwB_wが定まり,D\mathcal{D}のindecomposableな対象はこれとそのシフトで尽きる.
  • 環同型ch:[D]H\mathrm{ch}\colon [\mathcal{D}]\simeq \mathcal{H}が存在する.
  • 係数体の標数が00ならばBSgr\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}と圏同値になる..

さきほどの同型の右辺はZ[W]\mathbb{Z}[W]ではなかったので,これから少し変更する必要がある.圏Dasph\mathcal{D}^{\mathrm{asph}}を,対象はD\mathcal{D}と同じもの,射を HomDasph(X,Y)=HomD(X,Y)/I(X,Y), \mathrm{Hom}_{\mathcal{D}^{\mathrm{asph}}}(X,Y) = \mathrm{Hom}_{\mathcal{D}}(X,Y)/ I(X,Y), ただしI(X,Y)I(X,Y)XXからYYへの射で,あるwfWw\notin {}^{\mathrm{f}}Wに対してBwB_wを経由するもの,とすることで定める.すると,ch\mathrm{ch}は同型 [Dasph]sgnHfH [\mathcal{D}^{\mathrm{asph}}] \simeq \mathrm{sgn}\otimes_{\mathcal{H}_{\mathrm{f}}}\mathcal{H} を定める.ただしHf\mathcal{H}_{\mathrm{f}}は有限Weyl群に対するHecke環で,sgn\mathrm{sgn}はその符号表現.

D\mathcal{D}の対象をテンソルすることで,Dasph\mathcal{D}^{\mathrm{asph}}にはD\mathcal{D}が作用する.そこから[Dasph][\mathcal{D}^{\mathrm{asph}}][D]H[\mathcal{D}] \simeq \mathcal{H}加群の構造を持つ.上の同型はH\mathcal{H}加群としての同型である.

ch(Bw)\mathrm{ch}(B_w)pp-canonical basisという.

この基底を計算するアルゴリズムがある.また,wwを固定すると,十分大きなppに対してこれはKazhdan-Lusztig基底と一致する.ただし,このppwwによらずにとることはできない(らしい).

tilting加群

XRepGX\in \mathrm{Rep}GのフィルトレーションがΔ\Delta-flag(resp. \nabla-flag)とは,その隣接商がΔ(λ)\Delta(\lambda)(resp. (λ)\nabla(\lambda))と同型なことである.XXΔ\Delta-flagと\nabla-flagを持つ時,tiltingであると呼ばれる.これは次の性質を持つ.

  • 直和,直和因子について閉じていて,tilting加群全体のなす圏Tilt(RepG)\mathrm{Tilt}(\mathrm{Rep}G)は加法圏.
  • wall-crossing functorについて閉じている.よって[Tilt(Rep0G)][\mathrm{Tilt}(\mathrm{Rep}_0G)]Z[W]\mathbb{Z}[W]加群の構造を持つ.
  • XXΔ\Delta-filtrationの隣接商におけるΔ(λ)\Delta(\lambda)の数を(X:Δ(λ))(X:\Delta(\lambda))と書くと,これはΔ\Delta-flagの取り方によらず,[X]wfW(X:Δ(wλ0))w[X]\mapsto \sum_{w\in {}^{\mathrm{f}}W}(X:\Delta(w\cdot \lambda_0))wWW表現としての同型[Tilt(Rep0G)]sgnZ[Wf]Z[W][\mathrm{Tilt}(\mathrm{Rep}_0G)]\simeq \mathrm{sgn}\otimes_{\mathbb{Z}[W_{\mathrm{f}}]}\mathbb{Z}[W]を与える.
  • λX+\lambda\in \mathbf{X}^+に対してindecomposable tilting加群T(λ)\mathbb{T}(\lambda)が存在し,Tilt(RepG)\mathrm{Tilt}(\mathrm{Rep}G)のindecomposable tilting加群はこれで尽きる.

というわけで予想は次の通り.Ddegasph\mathcal{D}^{\mathrm{asph}}_{\mathrm{deg}}Dasph\mathcal{D}^{\mathrm{asph}}の次数を忘れたものとする.

同型Tilt(Rep0G)Ddegasph\mathrm{Tilt}(\mathrm{Rep}_0G)\simeq \mathcal{D}^{\mathrm{asph}}_{\mathrm{deg}}T(wλ)\mathbb{T}(w\cdot \lambda)BwB_wに送るものが存在する.

もしこの予想が正しければ,右辺には圏D\mathcal{D}が作用するので,左辺にも作用することになる.これからRep0G\mathrm{Rep}_0GD\mathcal{D}が作用する.

Rep0G\mathrm{Rep}_0GへのD\mathcal{D}の作用が存在する.(生成元の行き先などは指定されている.)

実は後ろの予想は前の予想を導く.

もしRep0G\mathrm{Rep}_0GへのD\mathcal{D}の作用が存在すれば,Tilt(Rep0G)Ddegasph\mathrm{Tilt}(\mathrm{Rep}_0G)\simeq \mathcal{D}^{\mathrm{asph}}_{\mathrm{deg}}

もちろん関手は作用を使ってBT(λ0)BB\mapsto \mathbb{T}(\lambda_0)Bにより与えられる.Homの間の同型を示せば良いのだが,wall-crossing functorの解析をうまくしているように見える.(tilting加群の方が少し大変っぽい.前者と次元の評価でしている.)

予想の帰結として,[T(wλ)][\mathbb{T}(w\cdot \lambda)]の指標はpp-canonical basisで記述されることが従う.ここまでの話は(λ0\lambda_0が存在しなければならないので)p>hp > hを仮定していたが,この事実は常に成り立つと予想している.もちろん,λ0\lambda_0が存在すれば,translation functorによってこれはλ0\lambda_0の場合に帰着される.

予想から,あれ,Rep0G\mathrm{Rep}_0GRRの作用が入るのかと思ったけど,Dasph\mathcal{D}^{\mathrm{asph}}に言った段階でRkR\to kを経由してしまうらしい.(s=sαs = s_\alphaに対してα\alpha^\vee倍がBeBsBeB_e\to B_s\to B_eで実現できるので.)

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