2017年10月13日

なんとなく証明がわかってきた気がするので書いてみる.ちなみに証明はN. Jacobson, Structure theory for algebraic algebras of bounded degree, Ann. of Math., Vol. 46, No.4, 1945にある.みやたにくんに教えてもらいました.

定理は次の通り.以下ずっと$A$を環とする.

任意の$x\in A$に対して$x^{n(x)} = x$となる$n(x)\in\mathbb{Z}_{>1}$が存在するならば,$A$は可換.

まず簡単な帰着をする.$A$は定理の条件を満たすとし,$n$を$A$の標数($\mathrm{Ker}(\mathbb{Z}\to A)$の生成元)とする.$x\in \mathbb{Z}$に対して$x^{n(x)} - x\in\mathbb{Z}$は$A$内で$0$なので$\mathbb{Z}\to A$は単射ではなく,よって$n \ne 0$.また任意の素数$p$に対して$A$内で$p^{n(p)} - p = 0$であるから$n$は$p^{n(p)} - p$の約数.$p^{n(p)} - p$は$p$で一回しか割れないことから,$n$も$p$で一回しか割れない.$p$は任意の素数であるので,$n$は互いに異なる素数の積である.$n$を割る素数を$p_1,\ldots,p_r$とすると,$n = p_1\cdots p_r$.$A$は$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\simeq \mathbb{Z}/p_1\mathbb{Z}\times\cdots\times \mathbb{Z}/p_r\mathbb{Z}$上の代数であり,従って$\mathbb{Z}/p_i\mathbb{Z}$代数$A_i$により$A = A_1\times \cdots\times A_r$と分解する*1.$A$を$A_i$に変えることで,最初から$A$はある素数$p$に対して$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$代数であるとしてよい.

以下$k$を体とし$A$は$k$代数であるとする.定義を一つ与える.

$A$が($k$上)代数的であるとは,任意の$a\in A$が代数的,つまりある$0$でない$k$係数多項式$f(X)$が存在し$f(a) = 0$となることである.

定理1の条件を満たす$A$は明らかに代数的である.さらに$0$以外の冪零元を持たないことにも注意する.定理1は次の二つから導かれる.

$A$が代数的かつ$0$以外の冪零元を持たないならば,$A$は$k$上の斜体の(一般には無限個の)直積に埋め込まれる.

有限体上の代数的な斜体は可換である.

次の事実から始める.

$J\subset A$をJacobson根基とする.$A$が代数的ならば,$A$の任意の元は冪零である.

$x\in J$とする.$A$は代数的であるので,ある$a_n,a_{n - 1},\ldots,a_r\in k$,$a_n,a_r\ne 0$により \[ a_nx^n + a_{n - 1}x^{n - 1} + \cdots + a_rx^r = 0 \] となる.$y = a_r^{-1}(a_nx^{n - r - 1} + a_{n - 1}x^{n - r - 2} + \cdots + a_{r + 1})$と置くと,$a_r(yx + 1)x^r = 0$.Jacobson根基の特徴付けの一つにより,$J = \{a\in A\mid 1 + AaA\subset A^\times\}$であるので,$yx + 1$は可逆.よって$x^r = 0$である.

Jacobson根基のもう一つの特徴付けにより,$J = \bigcap I$($I$は$A$の左極大イデアル全体を走る)である.よって自然な射 \[ A\to \prod_I \mathrm{End}_k(A/I)\] の核は$J$と一致.特に$A$が代数的かつ冪零元を持たなければ補題5から$J = 0$であるので,この写像は単射である.$I$の極大性から$A/I$は単純左$A$加群,$D_I =\mathop{\mathrm{End}}_A(A/I)$とおくと,Schurの補題*2から$D_I$は斜体であり,また$A$の像は$\mathop{\mathrm{End}}_{D_I}(A/I)$に含まれる.よって,$A$が代数的かつ冪零元を持たないならば埋め込み \[A\hookrightarrow \prod_M \mathop{\mathrm{End}}_{D_I}(A/I)\] を得る.$D_I$は斜体であるので,$D_I$加群はすべて自由であり,基底の濃度の一意性が成り立つことに注意する.

定理3のためには次を示せばよい.

$A$は代数的かつ冪零元を持たないとする.単純左$A$加群$M$は$D =\mathop{\mathrm{End}}_A(M)$上一次元である.

続きは後で.

*1
$(0,\ldots,0,1,0,\ldots,0)\in \mathbb{Z}/p_1\mathbb{Z}\times\cdots\times \mathbb{Z}/p_r\mathbb{Z}$($i$番目のみが$1$)に対応する$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$の元を$e_i$とし,$A_i = e_iA$とおくと,$a\mapsto (ae_1,\ldots,ae_r)$により定義される$A\to A_1\times \cdots \times A_r$が同型を与える.逆は$(a_1,\ldots,a_r)\mapsto a_1 + \cdots + a_r$.
*2
任意の環$A$の既約$A$加群$M$に対して$\mathop{\mathrm{End}}_A(M)$は斜体.証明は次の通り.$f\in \mathop{\mathrm{End}}_A(M)$が$0$でないとすると$f$の核は$M$の全体でない部分$A$加群で,よって$M$の既約性から$0$となる.従って$f$は単射.同様に$f$の像を考えれば$f$は全射にもなる.

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