最後に次を示す.
有限体上の代数的な斜体は可換である.
$k$を標数$p$の有限体,$D$をその上の代数的な斜体,$C$を$D$の中心とし,$C\ne D$と仮定する.$x\in D\setminus C$をとる.$x$は代数的であるので$k(x)$は$k$上の有限次拡大,特に巡回拡大.よって$C(x)/C = Ck(x)/C$も巡回拡大である.$\sigma$を$\mathop{\mathrm{Gal}}(C(x)/C)$の生成元とすると,$\sigma\colon C(x)\to C(x)$は以下の定理により$D$上の内部自己同型にのびる,つまりある$y\in D$により$\sigma(x) = yxy^{-1}$となる.適当な$p$の冪$q$により$\sigma(x) = x^{q}$であるので,$yxy^{-1} = x^{q}$.これと$x,y$が代数的であることから,$k(x,y)$は$k$上有限次元であり,従って有限斜体.これは有限斜体が可換であることを主張するWedderburnの小定理に反する.
使った定理(よく知られている?)は以下の通り.(Skolem-Noetherっぽいだけと有限性の仮定が一見弱い.証明は同じ.)$k = C$として使う.
$D$を$k$上の斜体とし,$D$の中心は$k$であるとする.$A\subset D$を$k$上の有限次元部分斜体とすると,$A$の任意の自己同型は$D$の内部自己同形に伸びる.
$A,D,k$を定理の通りとし,ベクトル空間$A\otimes_k D^{\mathrm{op}}$($D^\mathrm{op}$は$D$の反転環)に積を$(a_1\otimes d_1)(a_2\otimes d_2) = a_1a_2\otimes d_1d_2$と入れる.次の補題は後で示す.
既約$A\otimes_k D^{\mathrm{op}}$加群はすべて同型.
自己同型$\varphi\colon A\to A$に対して,$A\otimes_kD^{\mathrm{op}}$加群$V_1,V_2$を次で定める.加法群としては$V_1 = V_2 = D$であり,$a\otimes d\in A\otimes D^{\mathrm{op}}$に対して,$v\in V_1$ならば$(a\otimes d,v)\mapsto avd$,$v\in V_2$ならば$(a\otimes d,v)\mapsto \varphi(a)vd$として$A\otimes_kD^{\mathrm{op}}$加群の構造を定める.$1\otimes_k D^{\mathrm{op}}\subset A\otimes_k D^{\mathrm{op}}$に制限して考えれば$V_1,V_2$は既約であるので,$A\otimes_k D^{\mathrm{op}}$加群としても既約.よって補題から$V_1\simeq V_2$である.同型$f\colon V_1\to V_2$をとり,$b = f(1) \in V_2 = D$とおくと,$v\in V_1$に対して$f(v) = f(1\times v) = f(1)v = bv$である.また$A$線形であることから,$a\in A$に対して$\varphi(a)b = \varphi(a)f(1) = f(a) = ba$.よって$\varphi(a) = bab^{-1}$となり定理が示された.
最後に補題3を示す.先に次を示しておく.
$A\otimes_k D^{\mathrm{op}}$は単純環,つまり非自明な両側イデアルを持たない.
$I\subset A\otimes_k D^{\mathrm{op}}$を$0$でない両側イデアルとし,$0$でない$x = a_1\otimes d_1 + \cdots + a_n\otimes d_n\in I$をとる.ただし$a_1,\ldots,a_n$は$k$上一次独立で,$n$はこのような中で最小(特にすべての$i$で$d_i\ne 0$)なものとしておく.$1\otimes d_1^{-1}$をかけることで,$d_1 = 1$としてよい.$d\in D^{\mathrm{op}}$に対して \[(1\otimes d)x - x(1\otimes d) = a_2\otimes (dd_2 - d_2d) + \cdots + a_n\otimes (dd_n - d_nd)\] であり,これは$I$の元.よって$n$の最小性から$dd_i = d_id$がすべての$i = 2,\ldots,n$と$d\in D^{\mathrm{op}}$に対して成り立つ.従って各$d_i$は$D^{\mathrm{op}}$の中心,すなわち$k$の元である.$a = d_1a_1 + \cdots + a_nd_n$とおけば$x = a\otimes 1$.よって$1\otimes 1 = (a^{-1}\otimes 1)x\in I$.従って$I = A\otimes_k D^{\mathrm{op}}$である.
補題3を示す*1.$B = A\otimes_k D^{\mathrm{op}}$とおき,$I\subset B$を既約な左$B$加群とする*2.$IB\subset B$は両側イデアルであるから,補題4から$IB = B$.よって$B = \sum_{b\in B}Ib$となる.$b\in B$に対して,$x\mapsto xb$は全射準同形$I\to Ib$を与える.$I$は既約であるので核は$I$全体か$0$であり,それに従って$Ib = 0$または$Ib\simeq I$である.つまり$B$は$I$と同型な既約部分加群の和としてかける.よって$B$は左$B$加群として半単純で,また(半単純加群のよく知られた性質により)左$B$加群として$B \simeq I^n$となる.($n\in \mathbb{Z}_{>0}$.$n$が有限であることは$D^{\mathrm{op}}$上の次元から従う.)任意の既約$B$加群は$B$の商であるので,これは$I$に同型となる.
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