2016年2月4日

arXiv:1512.08296を眺めている(≠読んでいる).メモ.あっている保証はない.間違っていたら教えてください.

圏$\mathcal{O}$の場合

まずはもととなる圏$\mathcal{O}$の場合から.$\mathcal{O}_0$を圏$\mathcal{O}$の自明表現を含むブロックとすると,この圏の既約表現はWeyl群$W$でパラメトライズされる:$\{L(w)\mid w\in W\}$.そしてこの圏は最高ウェイト圏なので,標準加群$\{\Delta(w)\}$が存在する.Grothendieck群$[\mathcal{O}_0]$は$\{[\Delta(w)]\}$を基底とする自由$\mathbb{Z}$加群である.従って自由$\mathbb{Z}$加群としての同型$[\mathcal{O}_0]\simeq \mathbb{Z}[W]$が存在する(右辺は群環).

この同型は自由$\mathbb{Z}$加群以上の構造を持つ.$s\in W$を単純鏡映とし,$\Xi_s$をそれに付随するwall-crossing functorとすると,$[\Xi_s\Delta(w)] = [\Delta(w)] + [\Delta(ws)]$が成り立つ.つまり,$[\mathcal{O}_0]$への$W$の右作用を,単純鏡映$s\in W$に対して$[X]\mapsto [\Xi_s X] - [X]$で定めると,同型$[\mathcal{O}_0]\simeq \mathbb{Z}[W]$は右$W$加群としての同型になる.

Soergel双加群により,この同型をcategorifyすることができる.$\mathrm{BS}$をSoergel双加群の圏としよう.$\mathfrak{h}$をCartan部分代数とすると,$\mathrm{BS}$は$R = S(\mathfrak{h})$双加群の,直和および直和因子について閉じている部分圏で,また更にテンソル$\otimes_R$によってモノイド圏の構造を持つ.従って,$\mathrm{BS}$の分裂Grothendieck群*1$[\mathrm{BS}]$は積構造を持つ.更にcharacter map $\mathrm{ch}\colon [\mathrm{BS}]\to \mathbb{Z}[W]$が存在し,これは環同型を与える.

上の同型の圏バージョンは次の通り.$\mathrm{BS}_{\mathbb{C}}$を$\mathrm{BS}$から$\otimes_R\mathbb{C}$して得られるものとする.また$\mathrm{Proj}\mathcal{O}_0$を$\mathcal{O}_0$の射影加群のなす部分圏とする.このとき \[ \mathrm{Proj}\mathcal{O}_0 \simeq \mathrm{BS}_{\mathbb{C}} \] が成り立つ.*2

更に幾何学的対象と次のように結びつく.$G/B$を旗多様体とし,$\mathrm{Perv}_{(B)}(G/B,\mathbb{C})_{\mathrm{ss}}$を$B$軌道に対してスムーズな$G/B$上の半単純偏屈層全体のなす圏とすると,圏同値$\mathrm{BS}_{\mathbb{C}}\simeq \mathrm{Perv}_{(B)}(G/B)_{\mathrm{ss}}$が成り立つ.

圏同値に対する注意が二つほど.$\mathrm{BS}$は$R$双加群の圏の部分圏だったが,これを次数付き$R$双加群の圏に置き換えることで,次数構造を持つ圏$\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}$を得る.次数のずらし$X\mapsto X\langle 1\rangle$はGrothendieck群の間の同型$[\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}]\to [\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}]$を与える.これを$v$と書くと$[\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}]$は$\mathrm{Z}[v,v^{-1}]$加群となる.すると,環同型$[\mathrm{BS}]\simeq \mathbb{Z}[W]$は,同型 \[ \mathrm{ch}\colon [\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}]\simeq \mathcal{H} \] に持ち上がる.ここで右辺は有限Coxeter系に付随するHecke環である.同様に,$\mathrm{Perv}_{(B)}(G/B,\mathbb{C})_{\mathrm{ss}}$も$\mathrm{Perv}_{(B)}(G/B,\mathbb{C})_{\mathrm{ss}}$の対象のshiftの直和のなす圏$D^b_{(B)}(G/B,\mathbb{C})_{\mathrm{ss}}$に変更することで,次数構造$X\mapsto X[1]$が入り,さきほどの同型は$\mathbb{Z}[v,v^{-1}]$加群としての同型となる.最後の一つ,$\mathrm{Proj}\mathcal{O}_0$には次数構造が見えない.むしろ,上の二つの次数構造を引き戻すことで,$\mathrm{Proj}\mathcal{O}_0$に次数構造を入れることができる.$\mathrm{Proj}\mathcal{O}_0$は$\mathcal{O}_0$自身を支配するので,$\mathcal{O}_0$にも次数が入る(Beilinson-Ginzburg-Soergel).

対象に対して,この圏同値では次のような対応がある:$P(w)\longleftrightarrow B_w \longleftrightarrow \mathrm{IC}_w$.ここで$P(w)$は$L(w)$の射影被覆,$\mathrm{IC}_w$は$BwB/B\subset G/B$に対応する単純偏屈層,また$B_w$はindecomposable Soergel双加群である.(実際には$B_w$は$\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}$で定義され,ここでの$B_w$はそれが落ちてきたもの.)indecomposable Soergel双加群は純粋に$\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}$のみで定義される.次の予想はSoergel予想と呼ばれる.

$\mathrm{ch}(B_w)\in \mathcal{H}$はKazhdan-Lusztig基底.

もちろんこの文脈では,これは圏同値$\mathrm{BS}_{\mathrm{gr}}\simeq D^b_{(B)}(G/B,\mathbb{C})_{\mathrm{ss}}$とKazhdan-Lusztigによる定理の帰結にしかならないが,Soergel双加群は任意の生成元の数が有限なCoxeter系に対して定義することができ,同じ予想を立てることができる.(Elias-Williamsonにより解決済み.)

なんか疲れたので本題は明日に.

*1
Objectを生成元とし,$[X \oplus Y] = [X] + [Y]$で関係式を定めたもの.$\mathrm{BS}$は加法圏でしかないため.
*2
よく見るのは左辺をdeformed categoryにしたものなので,これであっているかちょっと不安…….

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