2018年11月22日

メモ

Coxeter群$(W,S)$とその表現$V$が与えられているとする.$V$がreflection faithfulである時,SoergelはSoergel bimoduleの理論を作った.ただ,このreflection faithfulという条件はちょっと強すぎる.例えば$W = W_0\ltimes X^*(T)$がaffine Weyl群の時に(通常のdualなのは表現論との都合),体$k$に対して$X_*(T)\otimes_{\mathbb{Z}} k\oplus k$上に$(w,\lambda)(\nu,r) = (w(\nu),r - \langle\lambda,\nu\rangle)$という形の表現構造を入れることができるが,これは$k$の標数が正の場合にreflection faithfulではない.(faithfulでないことがすぐわかる.定義からreflection faithfulならばfaithfulである.)

まぁ,表現がfaithfulでないとまずいのはほぼ明らか.Soergelの理論は各$w\in W$の$\mathrm{GL}(V)$への像しかみない.従って表現がfaithfulでないと区別のつかないWeyl群の元が出てくる.Soergel bimoduleはHecke環を圏論化するので,元が区別できないとまずいわけで.

Elias-Williamsonはうまく機能している場合のSoergel bimoduleの生成元と関係式を記述した.まぁそれはよいのだが,その生成元と関係式によって,$V$がreflection faithfulでない場合にもSoergel bimoduleの圏の類似を定義した.この圏もHecke環を圏論化するのだが,どうやらこれは「正しい」対象であるようで,その後の研究に使われていたり,parity sheafの圏との圏同値が示されたりしている.

で,この$V$の話.さすがに単に表現というだけではまずく(例えば自明表現では機能しないと思う),彼らは次の条件を課している.$k$を可換環とする.

有限階数自由$k$加群$V$および$\alpha_s^\vee\in V$,$\alpha_s\in V^* = \mathrm{Hom}_k(V,k)$ ($s\in S$) がrealizationであるとは以下を満たすこと.

  1. $\langle \alpha_s^\vee,\alpha_s\rangle = 2$.
  2. $s(v) = v - \langle v,\alpha_s\rangle \alpha_s^\vee$により$s\colon V\to V$を定めると,これは$W$の表現を与える.(同じことだが,braid relationを満たす.)
  3. ある技術的条件を満たす.

この技術的条件は次の通り.

$s,t\in S$に対して,$st$の位数を$m_{s,t}$とし,有限であると仮定する.$x = \langle \alpha_s^\vee,\alpha_t\rangle$,$y = \langle \alpha_t^\vee,\alpha_s\rangle$とおく.このとき,$k\in\mathbb{Z}_{\ge 0}$に対して$[k]_x,[k]_y\in k$を以下で帰納的に定める.

\[ \begin{gathered} \ [0]_x = [0]_y = 0, [1]_x = [1]_y = 1, [2]_x = x, [2]_y = y,\\ \ [n + 1]_x = [2]_x[n]_y - [n - 1]_x,\\ \ [n + 1]_y = [2]_y[n]_x - [n - 1]_y. \end{gathered} \]

このとき,「技術的条件」とは$[m_{s,t}]_x = [m_{s,t}]_y = 0$を満たすことである.ちなみに帰納法ですぐわかるが$k$が奇数ならば$[k]_x = [k]_y$である.

なんだかよくわからない条件である.少し計算をしてみた.

$s,t$が$V$に可換に作用する場合を考える.つまり$\langle\alpha_s^\vee,\alpha_t\rangle = \langle\alpha_t^\vee,\alpha_s\rangle = 0$の場合.$[2]_x = [2]_y = 0$であるので,$[n + 1]_x = [n - 1]_x$.よって$[n]_x$が$0$になるのは$n$が偶数と同値.そもそもこのような表現が存在するのは$m_{s,t}$が偶数の場合のみなので,このときは常に条件が満たされるようだ.

(もう少し計算してみようかと思ったけどやめた.)

なお,$(st)^k$の作用を計算するとこの数が現れる.具体的には \[ \begin{aligned} (st)^k\alpha_s & = [2k + 1]_x \alpha_s - [2k]_y\alpha_t,\\ (st)^k\alpha_t & = [2k]_x\alpha_s - [2k - 1]_y\alpha_t \end{aligned} \] が成り立つ.(帰納法ですぐに示せる.)

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントの追加にはサードパーティーCookieの許可が必要です